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掲載日:2011年4月3日

とびっきりの言葉で伝えたい想い、響きあう想い

開催日:2010年11月20日(土)
会 場:コーヒー屋シュッツ
話し手:佐々木伸衣さん(この本だいすきの会)

佐々木伸衣さん

■ 目次

  • 自己紹介
  • なぜ読み語りを始めたか
  • ブラジルの子に伝えたい
  • 中学生に読み語りを
  • "語り"を届ける
  • (質問)
  • 自己紹介

    みなさま、こんばんは。お忙しい中、またお遠いところお出でいただきありがとうございます。

    谷口さんが先程おっしゃってましたが、寺子屋サロンの主旨としては、その人の歩いてきた人生なり、人となり、経験なりをもりこんで語ることで、共感し合うというようなことがあるのだそうです。私などに、とりたてて皆さまに語れるような越し方もないのですけども、せっかく時間をいただきましたので、お話させていただきます。

    まずは自己紹介をさせていただきます。

    大雑把なレジメで申し訳ないのですが、作ってまいりましたので、詳しくはそこを見ていただきたいのですけれども。名前は「ささきのぶよ」と申します。昭和32年に生まれましたので、今年53歳です。<一応53年という歩いてきた人生はあります。このレジメ中、私は「のぶよ」という字を"伸びる"という字に"衣"と書いて「のぶよ」と書きましたが、私の本当の名前、戸籍上の名前は「よ」という字は世界の"世"なんです。これは私の祖父が付けてくれました。たぶん祖父は、世の中に伸びてほしいなという思いを込めてつけてくれたんではないかと思っております。それでなぜこうなったかといえば、結婚により姓が変わる上で、いわゆる画数を考慮してのことでした。私は、祖父が付けてくれた名前だったので大切に思っており、「のぶよ」という呼び名だけは変えたくなかったので、四苦八苦の末このような名前になりました。

    私は、岐阜県の郡上郡白鳥町というとても雪深い山里で生まれ育ちまして、本当に田舎の中で幼いころを過ごしてきたのですけれども、東京におばやおじがたくさんおりましたので、勧められて、中学3年生のときに上京して、今がございます。結婚後2人の娘を産みました。

    私はその中で、ずっとPTA活動をやらせていただいて、あと絵本などにもかかわっておりました。そんな関係からでしょうか、本当に思いがけないことに、教育委員会の教育委員を3年ほど前におおせつかることになったのです(合併により、2010年3月にて任期終了)。その時に、議会も通るので、戸籍の名前で出さなくてはならないということになりました。一応、公報や関係書類に名前が出たりしますから・・・、そういうことが自分の人生にあろうとは思ってもいなかったけれども、50歳にしてこの名前が公に出されたときに、「あれぇ、おじいちゃん、この日のこと知っていたのかな・・・」と、ふと思いました。なんだか深い感慨をおぼえました。でも今日はやはり、今、二人の娘の母であり、佐々木という主人のいる私ということで"衣"の名前を書かせていただきました。

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    なぜ読み語りを始めたか

    ではこれから、私がなぜこの題で話させていただきたいかということをお話していきたいのですが、実は今日、半分ぐらいは私の大切なお仲間、私のことよく知ってくださってる方たちがいらっしゃるので、なんだかちょっと恥ずかしいのですけれども、初めてのみなさんもいらっしゃるので、ちょっと今、ここにいる皆さんと仲良くなりたいなと思いまして、まず最初に、手遊びをさせていただきます。

    私は幼稚園や小学校などに初めて行ったときに、まずこの手遊びをやるようにしています。

    寺子屋の一コマ
    音声 (手遊びの様子) (57秒)

    これはとてもたくさんの方がいらっしゃった大きな会場でやってもらって、初めて知ったんです。今、きっと皆さんも気づいてくださったと思うのですが、一つの音から二つになり、三つになり、四つになり、五つになったとき、音の違いに私はものすごく感動したんです。特にかえっていくときに、五・四・三・二・一と、ますますその音の違いを感じて。それは、一つより五つがいいということではなくって、それぞれの触れ合う音の響きがすごーく私の心に届いたのです。

    これは共鳴するということかなって思いました。たぶん人と人とのかかわりも、そういうことではないか、「読み聞かせ」や「語り」・・・、言葉を届けるということは、きっとこういうことではないかというふうに思いました。これをやったことで初めての皆さんとも、なんだか心がひとつにつながったような気がして、私は、これからのお話がしやすくなったのではないかと勝手に思っております。

    さて、私が読み語り(なんとなく、読み聞かせではなく読み語りと表現しています)をはじめたのは、長女を身ごもったときからなのです。結婚して10年目、34歳のときに身ごもりました。そのとき、これはもう神様が私に授けてくださった、そうとしか思えなかったんです。そんなときに出会ったのが、この絵本です。

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    『かみさまからのおくりもの』(ひぐちみちこ 作 こぐま社) 

    皆さんには今日特別に天使になっていただきたいんですね。神様が「とどけておくれ」と言ったら、皆さんで「はい、かしこまりました。」と言っていただけますか。

    寺子屋の一コマ
    音声 (『かみさまからのおくりもの』) (1分)

    性別はわかっていなかったのですが、私はおなかにいる子どもに毎日毎日この絵本を、想いを込めて読んでいたのです。きっと届くに違いないと思って。そして、無事元気な子が生まれてきまして、病院から帰宅した日からも、やはり私はこれをずっと読み語っていたんです。

    実は、私は、語っている五つのプレゼントの中で「やさしい」を自分の子にはもらいたいなと思っていたのです。そうして長女に読んでいてある日気づいたんです。「やさしい」のところにくると、娘が必ず足をぴこぴこぴこぴこって、返事をするように動かすんです。偶然だったのかもしれないけど偶然とは思えない、何度読んでもいつもそうだったので、私はこれは絶対想いが届いたのに違いないと思うようになったのです。

    だんだんハイハイもしだした頃、本棚の一番下に、赤ちゃん用の絵本を背表紙で並べて置いたんですけど、最初に娘が自分ではっていって私に差し出したのがこの絵本だったのです。読み語りするときには、こうやって表紙を見せているので、考えてみたら一度も背表紙は見せたことはないのです。でも、たしかに、これを取り出したんですね。ああ絶対、想いを込めた言葉は心に響くに違いないって思った瞬間が、そのときだったのです。

    そして、次女もやっぱりこの本が大好きで育ちました。だから私は、絵本てすごいな、絵本の力・言葉の力ってすごいなと思うのです。

    なぜ私が娘がおなかにいたときから絵本を手にとったかといえば・・・。もう年も34歳に入っていましたから、この世の中で、生まれた子どもに、してあげたほうがいいといえることは、なんでもしたいと思いました。それで、いろんな育児書などを読んで、その中のいいところをひっぱって。その中に、「絵本がいい」というフレーズがあったんです。「これだ!」と思って、おなかの中にできた第一歩から絵本を読み始めたのです。

    こうして、二人の子どもたちは絵本の好きな子になりました。そうして、長女が小学校2年生になったときです。何人かのお母さんが、「朝、お母さんが読み聞かせでクラスに入ると、そのクラスが落ち着くらしい」と、「読み聞かせ運動」に関する新聞記事など持ってきて、「やりませんか?」と呼びかけてくださったのです。私はそういう運動をそのとき初めて知ったのですけれども、自分がそうやって子どもを絵本で育ててきたので、すんなり「じゃあ私もやらせてください」と言って、小学校2年生の長女のクラスに入れていただいたのが最初だったのです。

    ところで、わが娘に読むときには、たとえばその子が気に入らない本を読んでしまったときにはもう「読んで」とは言わないし、あるいは怖い本に泣き出したりしたら、「大丈夫よ」なんて言ってフォローしてあげることができるのです。でも、ボランティアとして、それぞれ深くは知らないたくさんのお子さんたちに本を届けるとなったら、私は子どもに読んで育てたからとか、絵本が好きだからというようなことで安易に入ってはいけないと考えるようになりました。

    それでそのときから、絵本の勉強、読み語りの勉強など、しようと思いまして、今、私が所属しております『この本だいすきの会』(代表 小松崎 進)に入りました。そうしたらもう、絵本の魅力と伝えることの魅力にとりつかれてしまいました。いろいろなところに出かけていって、作者ご自身に出会う機会も増えました。作者に出会ってお話を伺うことでもっともっとその本が好きになっていったりしたのです。

    それで、その人の歩いてきた人生なり人間性なりがやはり人の心を打つのだということに思い至りました。―とびっきりの言葉で、想いを伝えるために豊かな自分であることーそれは、私などにはとても難しいことですが、少しづつでも変わっていきたいと思って歩いてはきたのですけど、まだまだだめで。これから最後の最後の、人生最後の日まで、そこを目指していきたいなと思っています。

    こうして、小学校でいろいろなお仲間と読み語りをするようになったのですが、子どもたちは本当に正直で、つまらない本やつまらない読み方(読み方も実は大切な事に気づきました)だったら、あんまり聞いてくれないのです。でも、楽しかったり、心に響くものは本当によく聞いてくれて反応してくれる。そうすると、心と心の手が握手しているのが見えるような気持ちになるのです。やっぱり、わが子への読み語りもいいけれど、集団に読み語る読み語りもいいなということにすごく気づいて、この活動をさせていただけることを心からありがたいと思うようになったのです。

    本当に子どもたちっていろんな反応をしてくれるのですけども、その日によって、好きな本が違ったり、そんなこともあるのです。

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    ブラジルの子に伝えたい

    ところで、私が5年生を担当しているときのことです。夏休みが終わって、さあ9月にどんな本を読みましょうね、なんて選本するのですけども、(その選本ということが読み語りの中ではとても大切なことなのです)このクラスのこの子たちに、この日この時どんな本が一番いいのかということを私は大切にしているんです。

    その選本のときにあるお母さんが、「そういえば5年生のうちのクラスにブラジルの子が転校してきたの。ほとんど日本語が話せなくってね」と教えてくれたのです。私は素敵な本を通して言葉や想いを伝えたい、豊かな時間を楽しんでもらいたいと思って読み語りに行っているんですけども、その10分間何にもわからない言葉を聴いているその子はどう感じるのだろうかと思ったら、いてもたってもいられなくなったのです。その日帰宅して一晩中考え続けて、「は!」と明け方に思いついたのです。「そうだ!『ゆうたはともだち』を読もう」と。

    この本は大好きな本だったのです。センテンスが短いので、この本ならどなたかがポルトガル語に訳してくれるかもしれなし、短いセンテンスなら、私の下手なポルトガル語でも伝わるかもしれないと思ったのです。だけど、知り合いにポルトガル語ができる方はいないし、どうしようと考えて、この本を編集された編集長のことを思いついたのです。私は、『この本だいすきの会』を通じてその編集長をよく存じあげていたので、朝が明けたときに、申し訳ないと思ったんですけれども、ご自宅にお電話をしてしまったのです。「私これこれこうで、これを読みたいのだけども、ブラジルの子がいるからポルトガル語に訳してくださる方ご存じないですか?」って。編集長だからきっと人脈もおありだと思ったのです。そしたら 何と「僕はちょうどこれから尼ヶ崎の保育園に行くところなんだけれども、その保育園の園長先生のお嬢さんがポルトガル語が堪能な方なんだよ!じゃあ今日行ってお願いしてみる!」と。人生にこんなぴったりのことがあるのか!とびっくりしました。そして、翌日うれしそうなお声で電話がかかってきて、「訳してもらったよ!いいですよー」ってファックスを送ってくださいました。

    そんなこんなのうちに、この子には2年生の妹がいるということもわかりました。そこで、2年生の彼女もその朝、5年1組に聞きに来てくれることになったのです。

    心づもりでは、流れが大事だと思ったので、最初に日本語でひと通り読んで、それからポルトガル語で読んであげようかなと思っていたんです。そうして、朝教室に入っていって「おはようございます」と言ったときに、いちばん前にそのふたりの兄妹がすわっていて、くいいるように私を見ていたんです。そうしたら、ひと通り日本語で先に読むことができなくなって、私は一文ずつ日本語ポルトガル語と交互に読むことにしました。

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    『ゆうたはともだち』(きたやまようこ 作 あかね書房)

    寺子屋の一コマ
    音声 (『ゆうたはともだち』) (1分9秒)

    読んだら、何とこのふたりはとても反応してくれて、「届いてる!届いてる!」って思いました。担任の先生に伺ったことによると、特に5年のお兄さんの方はまだなかなかなじめないでいるとのことでした。そんなこともあって私は「おれとおまえぜんぜんちがう、だけどすき、だからともだち」というこの内容を届けたいとも思ったのです。これは教訓的なことをおしつけている本ではなく、絵もはっきりして楽しめるし・・・、それで「どちらの国の子どもにもこのメッセージが届くといいなあ・・・」と思いました。

    翌日学校へいったら、特別の時間帯でふたりについてくださっている通訳の先生が「佐々木さん、佐々木さん、昨日あのふたりがものすごーく喜んでね、ポルトガル語で読んでくれた人がいるんだよって、すっごく楽しかったよって話してくれたんですよ!」って話してくださったのです。私はなんだか、うれしくて、うれしくって!心が通い合うってこんなにうれしいことなんだろうかと思ったのです。

    それから、「擬音語・擬態語なら言葉がわからなくたって、音で聞いてくれるはずだ」と思い、谷川俊太郎さんの『もこ もこもこ』を読んだりしました。"もこ"とか、"ぱちん"とか、"ふんわふんわ"とか、すごくはっきりした絵の中で、擬音語・擬態語を重ねていくんです。実は擬音語・擬態語が豊富というのは日本語の特長であって、英語とかフランス語など外国語には表現方法としてあまりないというのを伺っていたので、心配だったのですけれど、なんとなんと!いちばん笑ってくれたのが、彼だったのです。これはきっと、"言葉の持つ響き"というものに反応するんだろうなって思いました。響きや音の高低、それがおもしろいんだろうなあ・・・、だから、意味も知らない、言葉もわからない赤ちゃんは擬音語・擬態語や昔話の"どんぶらこっこ、すっこっこ"なんていうリズムカルな言葉が好きなのかしら、ともあらためて気づかされました。

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    『もこ もこもこ』(谷川俊太郎 文  元永定正 絵  文研出版)
    『絵本から擬音語擬態語ぷちぷちぽーん』(後路好章 著 アリス館)

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    中学生に読み語りを

    ところで、私は中学生にもどうしても絵本を届けたいという思いをもっていたのです。娘の中学校は"朝読書"というのをやっていて、朝の時間に入れていただくのは少し無理がありました。ところがうれしいことに、この中学校は総合の授業で、ゲストティーチャーとして地域の人を呼んで、絵手紙や俳句や手話など、いろいろなことを、子どもたちに好きなことを選ばせて、それがなんとなんと、週に2時間、8回ほど続けて体験させる、という時間を設けてくださっていたのです。そこで担当の先生に「私、読み語りの授業やりたいから、やらせてください」と頼んだら、「いいですよ、いいですよ」ということで、6年前から娘の中学で総合の授業に入れていただくことになりました。一日に2時間続けてやるわけですので、ただ、本だけ読んであげるのもと思い、"ブックトーク・読み語り"ということでやることにしました。

    一番最初の授業で私は、生徒たちにアンケートをとることにしているのです。こういうようなアンケートなんです。 

    まず、私はこういうことをこの時間にやりたいと自分の思いを語った後に、このアンケートを書いてもらうことにしてるのです。私はこの授業の中で、ひとつの軸として、幼稚園にこの子たちを連れて行って、園児たちに、読み語ることを味わってもらいたいとも考えてたので、その設問も入れました。

    ※幼稚園に行って読み聞かせしたいですか?

    アンケートによると、本が大好きで、たくさん読んでもらった経験を持ってこの部屋を選んでくれる子もいますが、必ずしもそうでない子もいます。けれど時間を重ねるうちに、(極端な例では、第1日目の2時間のうちに)「読み聞かせてもらうってすごく気持ちいい」「たくさん本を読んでほしい」と皆が言ってくれるようになりました。

    例えば、藤田浩子さんの『ほしいはなし』などを、自前で大きな紙に描いて語ったりすると、身を乗り出すように聴き入ってくれます。中学生であっても、『ももんちゃん』シリーズや幼い子の絵本に夢中になってくれ、「自分の幼いころに戻ったようで安心する」などと言ってくれます。

    そんな言葉をたくさんもらいながら「ああ、よかった、やらせてもらってよかった」って、私はきっと自分が届けたいと思った以上のものをいっぱいもらうことができたのだと震えるほどに感動したのです。

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    『ほしいおはなし』(藤田浩子 文   一声社)
    『ももんちゃん』シリーズ(とよたかずひこ 作  童心社

    さて、私が授業に入るときに必ず言うことは、どうして私がこうして、皆さんに会いにきたかということです。私は、私の尊敬する先生から、「この世の中で人間ほど豊かで美しくそして細やかな言葉を持ってるものはいないから、だから、言葉をちゃんと使おうね、言葉で伝えようね」ということを、教えていただいたのです。そしてまた私が二十歳だったときに、金田一春彦先生の講演を聴いて、そのときに先生が、「日本語はなんて美しい言葉なのだろう。たとえば、夕焼け・茜空・照り栄え・・・ひとつのものに、こんなにいろいろ美しい言葉がある国ってないんじゃないですか」っておっしゃったのがすごーく心に響いて、ずっと残っていました。それで、私も日本語の美しさを大切にしたいと思ってきたのです。

    長女が中学生になって、子どもたちが"コクル"という言葉を使うのを聞いたのです。それで、「何?コクルってどういうこと?」って聞いたら、いわゆる"告白する"ことなんだそうで、私はすごーく悲しくなりました。

    それで子どもたちの前に立って「みなさん、そういう言葉を使ってるらしいんだけれど・・・、もし、とても好きな人ができて、なかなか手紙を書けなくて、やっと書いた手紙を彼に渡して、次の朝、下駄箱にやってきたら、向こうの方から、「おい、俺さ、昨日こくられたんだよ。」なんて言うのを耳にしたら、自分の想いをすごーく軽く扱われているような気がしない?想いはこくるんじゃなくて、"告げる"という言葉があるから、やっぱり告げる人になってもらいたい」などということを話して、とびっきりの言葉で大切な想いを伝えましょうと語るのです。

    美しい言葉を使った、凝縮された絵本やたくさんの詩を読むことによって、あるいは、そのことを感じとってもらえないかなと思ったのが、やはり、絵本の授業を始めたきっかけのひとつではあります。

    ごめんなさい、忘れてきちゃったんですけれども、私の大好きな絵本の中のひとつに、『あのときすきになったよ 』という本があるんです。それは教育画劇から出ている薫くみこさんの作で、飯野和好さんが絵を描いてる絵本なんです。こんなお話です。

    ひとりの主人公の女の子がいて、そのクラスにもう一人めちゃめちゃにみえる女の子がいて、その子少し、一般的には遅れているのです。いつもおしっこをもらすんです。"おしっこさん、おしっこさん"とみんなに呼ばれ、ばかにされている子。主人公の女の子だって、おしっこさんのこと認めていないのです。ところがある日その主人公の女の子が、帰りの会がちょっと長引いたもので、先生が、手をたたきましょとか足踏みしましょといった瞬間に、ダァーッとおしっこをもらしてしまうんです。そのときに、そのおしっこさんが、さっと席を立って、教室にあった金魚鉢をわーっとひっくり返すんですね。すると、おしっこがその金魚鉢の水で流されて、みんなは金魚鉢の水がこぼれた、と思うんです。先生は、「何をするの!こんなところで」と叱ったけれども、彼女はたった一言もいいわけもせずに廊下にずっと立たされていた。というお話なんです。絵もおもしろいし、文もおもしろい。おもしろおかしく話が進みながら、みんなはげらげら笑いながら聞いてくれていたんですけども・・・。「金魚鉢の水をざーっと」と言った瞬間に、しーん・・・、笑っていたのに、はっと息を呑む音がたしかに聞こえました。そのときの皆の顔といったら・・・、若い13、14の人たちが、こんなにも思いつめた素敵な顔をする瞬間があるんだろうかというような顔がいっせいに向いたのです。その本を一番ラストにしていたので、その日は「さようなら」だけを言って何も言わずに帰りました。

    次が一週間後になったんですけれども、冒頭で、「先週、私はすっごく感動したんですよ」ってみんなの顔を見て語りかけたら、一人の男の子が、「はいっ、はい」と。「僕ね、あの日ずっとあの本のことが頭にあって、家へ帰ってお母さんに話したんだ。今日こういう本を読んでもらったって。」そうしたら、隣にいた子も、「え!?僕もだよ!ぼくもそうだった!そしてぼくね、その前に読んでもらった、『ダチョウのくびはなぜながい?』 あれもよかったよー」と言ってくれ、するとこっちの子も、「先生、あたしね、これがよかった・・、あれがよかった・・」って話してくれたのです。「ああ〜、なんか中学生の子たち、みんなこうやって、想いを言葉にしてくれるんだ」と思い、共感の幸せを味わった瞬間でした。こんな授業でいいのかといつも思い悩んでいましたけれど、やらせてもらってよかったと確信できました。

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    『あのときすきになったよ』(薫 くみこ 文  飯野和好 絵  教育画劇)
    『ダチョウだちょうのくびはなぜながい?』(ヴァーナ・アーダマ 文 マーシャ・ブラウン 絵 冨山房)

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    "語り"を届ける

    もっといろいろなエピソードをお話したかったんですけども、なんだか時間がいっぱいきてしまったような気がします。このあたりで"語り"のことも・・・。 私、7年ほど前に、今年の7月2日にお亡くなりになった櫻井美紀さんという語り手、(ご存知ですか?)素敵な素敵な語り手、世界に通じる、日本の語り手の第一人者だと思われるんですが、その方の語りを2回聞かせていただき、もう好きになってしまいました。櫻井先生の語りを聞いたとき、語りもまた人の心を強く揺さぶると思い、本当に心酔してしまったんです。それで語りも勉強しはじめたんです。(今、私の先生は 森 洋子さんです)語りは、覚えるということがありますから、より勉強が必要だし、そしてその人の生きてきた人生や人となりが、より重要というか、反映されるということに気づきました。これはやっぱり、自分自身をより磨いていかなくては。たくさんの喜びや悲しみ・・・憎しみのときもあるかもしれないけれども、それらを超えて豊かになっていかなければならないと思いました。だから語りも届けたいのです。ここでちょっと語りをやってもいいですか・・・(拍手) 最初は楽しいのにしましょうね。

    みなさんは問答ってご存知ですか?禅問答。たいへん高級といいますか難しいので、私にできるかどうかわかりませんが、こんにゃく問答ならできるかしらと思いまして、やらせていただきます。

    音声 (『こんにゃく問答』) (2分43秒)

    私が得意とするところといいますか、好きな語りは、たとえば『つつじのむすめ』とか、『いたちのこもりうた』とか、切々、情々としたのではあるんですけれども、今日は、初めてのみなさんとなので、楽しいのをやらせていただきました。もし今度切々とした物語も聞いてみたいななんて思っていただけたら、うれしく思います。本当はね、詩もたくさんご紹介したかったのです。私は、幼いころ本をたくさん読んでもらったという土壌はないんですけれども、10代の頃って、それなりに、なんだか、もの悲しいときじゃないですか? で、ある日歩いていて、初雪がふっと降ってきて、はっと手を出したら、手の上のひとひらがはらーっと消えたんですね。命ってはかないな、なんて思って。それから詩的なものにすごく興味を持つようになったのです。今、まどみちおさんや茨木のり子さん、工藤直子さんなど(※)とっても好きです。

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    ※(ポケット詩集T〜V、パタポン@Aなど、童話屋編の詩集をお薦めします。)

    ところで幼稚園や小・中学校では、心を開放してもらいたくってなるべく楽しい本とかを読むのですが、ここぞというときには、学年に合わせてメッセージ性のあるものを読ませてもらいます。また、高学年では8月あけた最初のときはつとめて、戦争について考えてもらいたく、そういうものを読むようにしています。今西佑行さんの『すみれ島』とか、最近だと『ぼくがラーメンたべてるとき』とかを読ませていただくんですが、例えば詩では、金井 直さんという方の、妹の死を詠った心に残る詩があるんです。

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    『すみれ島』(今西佑行 文  松永禎郎 絵  偕成社
    『ぼくがラーメンたべてるとき』(長谷川義史 作  教育画劇
    『木琴』(金井 直  花曜社)

    音声 (『木琴』) (2分53秒)

    では最後は、今日初めてお会いしたみなさんもいらっしゃいますし、これからまた、いいご縁がいただけますようにと願って、明るい希望にあふれた好きな詩を読みます。

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    今日からはじまる』 (高丸もと子 大日本図書)

    寺子屋の一コマ
    音声 (『今日からはじまる』) (5分15秒)

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    (質問)

    ◎読み聞かせボランティアをなさっている方が、活動を通してどんなものを得ているかということを教えていただきよかったです。

    Q 中学生に幼稚園で読み聞かせをしてもらうのがひとつの軸とおっしゃってたんですけど、その結果はどうなんでしょうか?

    A 一年目から、ほとんどの子が「幼稚園に行きたい」というので連れていきました。「どうしても読みたくない」という子は2〜3人いましたが、いっしょには行ってくれて、皆とっても楽しそうでした。

    行く前に、本の持ち方・開き方・読み方などは一応教えるのですが、「とにかく事前にたくさん読んできてね、ゆっくり大きな声でね、自分もこの本が大好きって思って読んでね」ということをいちばん伝えます。それでもなかなかうまくはいかないんですが、だけど一生懸命やってくれて、声が小さかったりつまったり、絵がよく見えなかったりしても、よくしたもので小さい子たちは、お姉さんやお兄さんが読んでくれるのが、もう、うれしくてしょうがないんです。たくさん笑って反応して、幼ないながらに、助けてあげるんです。ですから、中学生の子たちは、読んであげるって、こんなに楽しいものかって知ってくれました。

    「去年の子たちが幼稚園行くのが楽しかったって言っていたから」と、それを理由に私の授業を選んでくれる子もでてきました。

    今年はもう一つ新しい中学校にも入れていただいたんですが、一日一日追うごとに、本当に声を上げて楽しんでくれるようになりました。「幼稚園行く?」って聞いたらみんなが「行きたい!」って言って、やはりとてもいい経験になったと感想にも書いてくれました。

    そうそう、今の質問の答えではなく付け加えですが、私、絵本だけではなく、短編ものも読んであげるようにしているんです。丘 修三さんの短編集、私、好きなんです。『みつばち』の中に入っている『だるま』を読んであげたときに、私も泣きそうになるのをこらえながら読んだんですけども、じーっとよく聞いてくれて、ある男の子が最後に小さな紙切れに、「感動した」って一言書いてパッと渡して出て行ったんですね。だからそれもやっぱり私には、うれしいうれしい中学生とのかかわりだったんです。

    その中学生の子たちを幼稚園へ連れていく中で気がついたんですけども、「ねえ、みんな、この年少さんの子たちって、たった3回しかお誕生日のろうそく立ててないのよね」って言ったら、「え!?えー!?そうかー・・」「あなたたちはもう13本も立ててきたよねー・・すごいねー・・」 なんていったら 「ふうん」なんてすごく感じ入ってくれました。

    小さい子に読むことを好きになってくれて、それで、保育士になりたいって最後に手紙を書いてくれる子もいたのです!

    中学校の総合の授業に入れていただいて本当によかった!と思える出会いをたくさんいただきました。

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    『みつばち』(丘 修三 作  くもん出版)

    Q 幼稚園で読み聞かせするときはみんな自分の好きな本を持っていくんですか?

    A はい、まずは「もし自分で読みたいのがあったら持ってきてね」って言っています。自ら本を持ってきてくれた子は今まで3人ぐらいでした。ですから、私はいつも50冊くらい自分の本を持っていって、3歳ならこのくらい、4歳ならこのくらいの本がいいんじゃないかなって、アドバイスしながら、そこから好きなものを選んでもらいます。

    Q ブックスタートってなんですか?

    A もともとは1992年にイギリスで始まったんですけども、赤ちゃんが生まれたら、自治体によってその渡し方はさまざまですが、たとえば乳児健診のときに、赤ちゃんとお母さんに、選ばれたよい絵本を手渡すなどして、赤ちゃんとお母さん(家族)がより楽しくコミュニケーションできるよう手助けする活動です。日本では2001年から始まった制度で、今では自治体の半数近くが実施しています。さいたま市もやっています。

    赤ちゃんに絵本なんて理解できるのって声もありますが、赤ちゃんは本当によく見てくれてます。赤ちゃんの発達段階に合わせた絵本というのはさまざまなものがありますが、それは決して知育だけのものではないと思います。お母さんと赤ちゃんの、コミュニケーションの手立てにその絵本がなればいいのだと思います。それは、心と心の結びつきを深めること、感動の共有につながることなのだと思います。

    参考文献 『赤ちゃんと絵本をひらいたら』ブックスタートはじまりの10年 
                           (NPOブックスタート編著 岩波書店)
    (終わり)

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    <スタッフ>
    テープおこし:谷口正
    HTML制作:山野井美代

    お問い合わせ:  NPO「大人の学校」
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