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掲載日:2011年11月20日

チベット・5700mの高地で考えたこと
〜行者の生き方をヒントに〜

平塚 次男さん 開催日:2011年10月15日(土)
会 場:生活クラブ談話室
話し手:平塚 次男さん
    (NPO法人日本ヨーガ療法士協会 理事長)

目次

1 チベット(カイラス・ティルタプリ)の自然、そして、人々の生活

2年前にチベットに行きました。日本とは状況がだいぶ違うので、そういう経験をヨーガのことも含めてお話しさせていただきます。

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みなさん、チベットに行かれたことはないですよね。私が行ったチベットは、カイラス山とティルタプリという修行地です。 これがカイラスという山です。聖なる山で神が住んでいるといわれています。登れない山なんです。周りが53kmありそこを巡礼します。ここの峠が5700メートルです。

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ティルタプリという所はヨーガ行者が住んで修行をします。これはそこにあるお寺の前です。

どうしてチベットに行ったかといいますと、私はヨーガをやっていまして、伝統的ヨーガとヨーガセラピーの両方やっています。伝統ヨーガはヒマラヤを中心に修行している人が多いものですから、そこに是非行ってみたいと思っていました。私の先生が中心になってツアーを組まれたのです。なかなか行けないところなので思いきって行ってきました。

ネパールは何回も行ってるのですが、チベットはネパールからヒマラヤを越していくので高地なんです。平均でも4000m前後です。ネパールから上がっていって、3日目にはもう富士山の3700mを越しています。その高地を3週間くらい歩きました。4000Mを越すと何もなくて岩と土だらけです。

昼間は30度を超して半袖でも熱いくらいですが、夜には零下となり、半分くらいは雪の夜でした。ペットボトルをおいて置くと1cmくらい凍ります。昼と夜の温度差がとても激しいところです。また乾燥してますので、殆どの人がアカギレを起こしました。

ツアー自体は大名行列のようで、荷物はポーターが持ってくれますし、テント張りや食事作りもやってくれます。医者もついていました。乾燥がひどくてノドをやられる人もいました。 高山病予防の薬も用意されていました。ヨーガをやっている人はそういう薬を飲みたがらないのですが、初めてのツアーの時に薬を飲まないで高山病が続出したようです。

自然は厳しいですが景観はすばらしいところです。先ほどのカイラスの写真は雲がない写真でしたが、5分と同じ風景がないような所で、カイラスにはたいてい雲がかかっていました。 吹雪にあってテントに逃げ込んだりしましたが、地元の人はあんまり気にしてないんですね。30分位して静かになったところで外に出てみたところ、雪が全然積もっていません。今のは幻かと思うのですが、岩の後ろにはうっすらと雪が残っています。風が強いので雪を全部吹き飛ばしてしまうのです。これが日常なんです。

地元の人がよく飲んでいるのはバター茶です。塩っ辛くて私などには飲めたものではないんです。たまにお店もありますが、日本人の手が出るようなものは何もありません。トイレットペーパーは1ヶ100円くらいします。地元の人はペーパーを使う習慣がないので、何に使うのかわからないようです。

ツアー客の食事は、日本人登山家の対応に慣れているネパールのポーターがついてくれたので、日本食に近いものが出ました。ヨーガをやっているものは肉や酒を食しないということになっています。高地で沸点が違うのに、天ぷらや餃子が出ました。生活の面倒を見てもらえなければ、普通の日本人は到底こういう所には行けないです。自分の身を守るだけで精一杯の感じです。

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夜は星がきれいです。晴れていると気持ちがいいです。これは湖の側で2泊した際瞑想の時間を持った時の写真です。ここは5700mのところです。カイラスの周囲53kmを3分の2ほど来た峠の近くです。

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2 ヨーガとの出会い
  ≪伝統ヨーガとヨーガ療法≫

23歳の時インドに行ったのがヨーガとの出会いでした。インド、ネパールには何回も行って、この地の精神的支柱がヨーガではないかと感じました。それでヨーガをやってみたいと思っていましたが、本格的ヨーガはその頃日本にはありませんでした。ビューティーヨーガというのをやっていたのですが、足の指圧ばかりで何かおかしいな、と思っていました。次に浦和市民会館でのヨーガ講座で女性講師につき10年ほどやりました。その後今の先生に出会いました。

今の先生はヨーガ行者に直接修行した方でした。だから伝統的ヨーガも知っているし、ストレスの多い現代人に合うヨーガセラピー(療法)にも通じておられ、ヨーガの真髄を伝えようとしています。

ホットヨーガ、パワーヨーガというのは形だけをビジネス化したものですから、スポーツとしてはいいのかも知れませんが、ヨーガとしては亜流かなと思います。

伝統的ヨーガに少しでも触れたいと思いチベットに出かけました。行者が暮らし、修行したところを見てみたいという思いがありました。

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カイラスの山麓に、食事などは全部作ってくれるから居られるものの、暖かい時期でも1週間と暮らせないでしょうね。

たまたま温泉が出ているところがありました。川に流れているんです。穴を掘って入浴しましたが、地熱があるんですね。雪が降っても比較的暖かい所でしたが、こういうところで行者は修行してたのかな、と思いました。

行者は1m50くらいの高さがある洞穴で暮らしていたようです。そういう狭い所で座って瞑想していました。

そういう穴がいくつもあります。普通は入れないんですが、特別に許可をもらって見学したり、瞑想したりして過ごしました。付近に人間の生活のにおいはなく、どうして暮らしていたのか想像がつきません。 こういうことを現地で体験できましたので、日本に帰ってもそのことを思い出すことで、ヨーガを続けられるのかなと思っています。

ヨーガでは体操、呼吸、瞑想という具合に段階を踏みます。体操、呼吸で体を整えられるようになったら座禅などして、頭をフル回転させて瞑想に進みます。瞑想によって心のあり方を見直します。私にとってはこれが「宗教的体験」です。

ヨーガは赤ちゃんから亡くなる寸前まで行うことが出来ます。亡くなる前に「私は何のために生きたのか」を考えます。子供のある人だったら「人類のバトンタッチが出来た」と考えるかも知れません。自分で考えて納得する、というのもヨーガ療法の大事なポイントです。南鹿児島の赤十字病院ではこれからホスピス・ヨーガを取り入れるとのことです。瞑想の方法を取り入れてその人の人生を振り返り、心の安定を得ようとするものです。

認知症予防にもヨーガを取り入れてほしいと思っていますが、アクロバット的である、というようなイメージがありなかなかです。(認知症予防のためのヨーガ療法についての説明)。

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3 チベットと日本の相違点・共通点
  ≪厳しさのなかで生きる人間の可能性を探る≫

世界的に見るとチベットや日本は気候が厳しいと思われています。日本は地震や津波、台風があるからでしょう。

ヨーガ行者はヒマラヤを越して、わざわざそういう厳しいところに出かけていって修行をします。なぜそんなところに行くのでしょうか。

どうもどうストレスに耐えるか、ということで行くようです。これだけの厳しい自然の中に自分をおいた時、どう感じ、どうストレスを乗り越えられるか、を修行するのです。

それは自然とともにどう生きるかということにあります。ヨーロッパは自然を克服、征服、調整しようという志向がありますが、チベットや日本では自然の脅威をよく知っているので一緒に生きていこうという考えです。

私の体験ですが、中国に入ってから私の血圧が30くらい上がりました。他の人も一斉に上がりました。それは4000mの所に来て、宿泊がホテルからテントに変わったときでした。中国のホテルは一部屋5人くらいで20人くらいにトイレは1個です。ベッドも床もぼろぼろですが、横になれるだけましです。

テントはホテルより環境は悪くなります。体が、そのストレスを血圧を上げることで対応したのかなと思います。高山に慣れるための準備は時間をかけてしていたのですが。

その時私は夢を見ました。海の洞窟があって入ろうかどうか逡巡している夢でした。実際高地に来てここで引き返せる地点だったのです。これ以上行くと厳しい、今だったらネパールに帰れる所です。そこで息苦しくなって目が醒めました。夜中の12時頃だったのですが、それからずっと眠れませんでした。次の日にこのことをいろんな人に話したら、臨死体験の一種ではないかといわれました。カイラスへ来て今までの自分がなくなり、新しい自分に生まれ変わったということだろう、とのことです。ああそうかなあ、と思ったら血圧が元に戻りました。見方によってストレスを乗り越えたんですね。そこで引き返していたら、ストレスは乗り越えられなかったと思います。

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それぞれの人に何かあるみたいです。行く前に体験したとか、瞑想したときに感じた人もいます。思い入れがあって出かけていくので、何か変化のチャンスがあるようです。そういうことがないと寂しいです。行く価値がありません。

53kmは馬に乗って回りましたが、我々はハーハーヒーヒー言いながらでしたが、5歳くらいの子供が裸足で馬を引いて歩いていました。こっちは高山病予防の薬も飲んでいるのですが。

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4 林住期が面白い
  ≪インド人の生き方「四住期」(学生期・家住期・林住期・遊行期)≫

ヨーガは日本では心身を厳しく鍛えるというハードなイメージが強いですが、インドでは生き方そのものです。

インド人の人生観には「四住期」という考え方があります。学生期・家住期・林住期・遊行期の四つです。五木寛之に「林住期」という作品があります。

学生(がくしょう)期とは勉強をする時期、家住(かじゅう)期は一家をなし経済活動をして子供を育てる時期、林住(りんじゅう)期というのが面白くて、今の日本にも役立つ考え方かなと思います。遊行(ゆぎょう)期というのは、これまでの家、地位、財産など全てを捨てて旅に出る、という考えで、これは今の日本ではちょっと厳しいですね。のたれ死んでもいいということですから。覚悟を決めて物欲は全部捨てていくというのは現代インドも厳しいですが、何人かはいるそうです。

林住期というのは、仕事とのつながりは少し持ちながら、まあ週に2,3日は仕事も行い、自分の楽しみも持ちながら、宗教的活動(お経を読んだり、神に祈ったり)を行うといった生活です。宗教的というところは日本ではなじみが薄いかも知れませんが。

林住期とは、日本ではいうなれば定年後の生活でしょうか。私は林住期の考えを団塊の世代が定年を迎えるこの時期に応用できないかな、と思いました。それが「定年退職者の健康と生きがい・社会貢献を探す講座」の開設になりました。

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5 コミュニティカフェ「ラベンダー」の開設とその魅力
  《「定年退職者の健康と生きがい・社会貢献を探す講座」の実践報告》

「定年退職者の健康と生きがい・社会貢献を探す講座」は、ヨーガをやって健康になるということと、瞑想、無念無想で座るということではなく、よく考えるということ、自分で考えて判断して行動するということですが、この瞑想の方法を取り入れています。よく考えてということを入れながらやります。

具体的には、学生時代から10年ごとくらいに区切って、楽しいこと、得意なこと、自慢したいこと、などを思い出してもらってそれを今後の生活に生かしていく、ということをやりました。

例えば「旅行が好き」ということがあるとすれば、今後は外国を旅した時にはその地の子供たちの写真を撮って、個展を開くとか、国際交流の一環とするとか、視点を変えることで新たな展開が生まれます。普通の旅行だと自分の写真や景色の写真が多いのですが、その地の人たちの人間性を表現するようなことも一つの方法です。

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みなさん結構得意とされていることを持っておられます。私は仲間と「コミュニティーカフェ ラベンダー」を作ったのですが、職場と家の往復だけの人が多く地域に根がなく、たまり場のようなカフェがあればいいねと話し合っていました。すると家を開放してもいいという人が現れ、普通の家を週に一日だけ開放してもらえることになりました。

「ラベンダー」では、そんなにお金にはならないかも知れませんが、食事のほかに講座をやっています。現在10講座ほどがあります。ビジネスとして教えるほどではないが資格は持っている、というような方は結構います。4月から始めてすぐここまで出来ました。最近は週2日開放するようになりました。60過ぎの小さな仕事、いわばセミプロのような感じです。趣味や特技を生かした社会貢献+おこずかいです。有料ボランティアのような感じですかね。

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「ラベンダー」は講座参加費の10%をいただき会場・運営費に充てています。参加者が0だったら10%も0です。カフェや講座を通じて参加者も講師も社会とつながりがもてます。 そういうことと、自分の趣味に費やす時間、それから宗教的というと誤解があるかも知れませんが、心の安定を得るための活動、これは人それぞれ瞑想や体操をしてリラックスすること、以上3つの活動を自分なりに見つけておいて、年齢が高くなるにしたがい心の安定を得ることの比率を高めていくことが必要ではないかと思います。

私の友人のお煎餅屋さんは60になってお寺に入りました。この人もヨーガをやりながら自分を見つめ、そのような行動をとったのだと思います。林住期とはこういうことです。定年退職者が図書館で鼾をかいているような様子を見ますと、残念に思います。

「私は得意なことは何もない」という人も居ますが、例えば「サクラの会」などをやってみるとかはどうでしょう。行政ではいろんなイベントやってますが集まりはよくないことが多いのです。そこに「サクラ」として参加してみるということです。面白くなければすぐ帰ってきてもいいのですが、それなりの社会貢献にはなります。

「ラベンダー」ではサロンもやっています。これは介護予防のために行うということで、行政から補助ももらっています。建前は65歳以上の一人暮らしの方となっていますが、一人暮らしでなくてもいいとしています。一人だとテレビとしかしゃべらない人もいます。そうなる前にいろんな話をしたり、好きなことをやって交流するというのがサロンです。

カフェは保健所の許可ももらっていますが、通常のカフェをやろうとすると初期投資が大変です。今回は数万円で許可がもらえるようにしました。スタッフになるような人も10人くらいいました。その人たちでカフェ2日、サロン1日の週3日のシフトを組んでいます。食事も調理師免許のある人を中心に、お手伝いとともに作っています。看板づくりやブログづくりが得意な人もいます。

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(質問)

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Q  インドの修行地ではどういう過酷な自然があるのですか。

A  ヒマラヤのような山はありませんが、北の方に高い高原があり、自然が厳しいです。

Q  パワーヨーガ、ホットヨーガをやっています。

A  緊張を高める方法で、交感神経が刺激され、汗をかきます。昼間働いているのと同じような状態になります。しかしスポーツの代わりにするというならそれで良いのですが、ヨーガは緊張だけでなく弛緩も大事です。自分の体を自分でコントロールできるように整えていくのがヨーガのあり方です。

Q  2400-500mの山小屋でバイトをしていたことがありますが、高地にいると考えがシンプルになるようです。町に出るとあれこれと考えが否定的になります。心理学の勉強をしてカウンセラーを目指していますが、山での経験を生かして、自然活動を取り入れたカウンセリングが出来ないかなと思っています。

A  ヨーガにもヨーガ・カウンセリングがあります。「オウム」という言葉は,今はイメージが悪いですが、本来は「全てを受け入れます」という意味です。受け入れるけれども自分で良い・悪いを判断して、相手に対応するということです。相手を最初から拒否しない姿勢です。

Q  行者が厳しい自然の中で修行するのは自然と一体化するということでしょうか。その方法としてヨーガがあるのでしょうか。

A  というか、ストレスを受けている自分を客観的に見つめるということです。ですからストレスを受けるのは何も自然からだけではなく、社会からのストレスもあります。行者の中には社会のストレスについても考えている方もいます。

Q  この前テレビでヨーガの大会をやっていて、筋肉もりもりの女性が出ていました。

A  ヨーガは人に見せるものではなく、大会なんかはやったりはしません。デモンストレーションとしては良いかも知れませんが、必ずしも自分のためにはなっていません。自分の肉体・精神・心を見つめることがヨーガです。音楽をかけたり香を焚いたりもしません。気持ちがそっちに行ってしまいますから。

(この後、アイソメトリックの基本を教えていただきました)。

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