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掲載日:2013年3月24日

お題

布を草木で染めること・・・・
そこには先人の知恵による深い意味が

原澤 博子さん
開催日 : 2012年11月17日
会 場 : 生活クラブ本部談話室
話し手 : 原澤 博子さん ( 草木工房 艸 )

内服と外服

きちんとした形のモノをとることを服用、その中に内服というのがある。外からまとうことを外服、口から体を整えるモノを入れることを内服、食べることを整えて自分の体を中から整えることですね。外服は体を外からの寒さから守ったりすること、内服と外服で人を健康にさせること、これが服用です。

染め物の本当の意味を伝えています

医師からもらう薬の服用だけでなく、身にまとうことの大切さを、やや誇張して申しましたが、私は草木染めという染め物をやっています。この分野で使う草木は、漢方薬なんです。ですからこれで染めた物を身にまとうということは、外側から体を守るだけでなく、体を整えるという役目もありました。しかし現代人の殆どは、身につける物を価格で判断しています。

私はこの年になるまでにちょっとかじったことを、何かの形で、本当はそうではないんだよと伝えていきたい、そして川越で良いご縁をいただいたのでそこを基点に、染め物の本当の意味を伝えています。

草木染めと化学染料の違い

色で見た時、化学染料と比べると、目で見て優しい物を見た時の気持ちの静まり方が、言い意味でも悪い意味でもあるのです。ここに染め物を並べてみます。これは全部草木染めです。そして化学染料の色も対比で並べてみます。どうぞ触っていただいても結構です。

講座のひとこま

生地の素材としては、草木染めは基本的にシルクです。というのはタンパク質に色がとどまるんです。木綿とか麻にはタンパク質がないので、シルクなんです。綿とかだと色がくぐり抜けてしまいます。だからシルクだったり、ウールだったりします。

これは柿渋で染めた物です。糸をのばしてみてください。(いろいろに染めた物が広げられ、みんなで見る)。

これらの中には「何、ええ!」っていうのもあります。これらは1回で染めて出す色ではありません。何度も何度も染めます。ここにちょっとどきっとする色があります。似ているようで似てない物もありますね。(シルクでも織りが違うんですね)。触ってみるとわかりますね。殆どがシルクで、これだけウールです。

草木染めと化学染めを比べてみます

気になる色はありますか。(私はこれが好き、こんな鮮やかな色がねえ、など感想を言い合う)。この赤いのは力強いですね。

草木染めと化学染めを比べてみます。これはタイの王室で使われている化学染めです。王室使用に耐えうるほどの化学染めです。一緒に並べると、「わたしです、わたしです」と自己主張します。自分が元気な時はこれを選択する時もありますが、きついなあと思う時もあります。化学染めは最初に100%この色を作ってしまいます。最初に染めた時もうこの色で染まります。この赤も1回で染めてこの色です。

いろいろな素材を合わせると

原澤 博子さん

これはウールで黄色っぽく染めてあります。この黄色は葉っぱの色です。葉っぱは緑に見えますが、染め色の緑は持っていません。お「茶」って言いますよね、染め色は茶色なんです。緑を作る時は、青に黄色を足して作ります。特にこの緑は、藍の生葉といって、4月頃種をまいて梅雨時まで育った時の葉っぱを使います。1年に1回しか使えません。これと黄色を合わせたのが竹色です。自分でやっていても、不思議だなあ今年の色は、と思います。

これも黄色ですが、ザクロの黄色というはもうちょっと茶色っぽく入ります。これはカリアスの黄色です。

これはコチニールという貝殻虫の色が、草木染めには珍しく非常に強いので、柿渋を重ねて色を抑えました。このくらいだとコチニール染めもうちのお客さんにはいいかと思っています。

柿渋の世界

これは柿渋です。青いうちの柿の実をつぶして、絞って、発酵させた物です。藍も発酵です。藍の生葉を乾燥させ、温度と水で発酵状態にしスクモにします。スクモになると1年中使えますので、、それをカメに戻して保存します。

この柿渋と柿渋は兄弟です。こちらは発酵して半年くらい、これはもう少したった物です。梅雨時の青い実のうちにとりますが、ちょっとでも熟柿の段階にはいるとダメです。通常の草木染めは何度も染めて目指す色を出していきますが、柿渋は太陽の紫外線に当てると色が濃くなります。これがまた不思議な世界で、これから冬至を迎えるようになると太陽の力もだんだん弱ってきている時はダメなんですが、立春を過ぎて再び太陽の力が増して暖かくなってから当てるとこういう色になります。これは今年の立春から春分まで毎日当てていて、こういう優しい色になりました。でも真夏の太陽の強さだとこういう優しい色にはなりません。本当に自然からいただいているとしか言いようがありません。これからの季節はいくら晴れていても色は入りません。毎日季節や光、温度、空気を感じながら今日はこれかな、あれかなと試行錯誤の連続です。

これも柿渋ですがちょっと色合いが違うでしょう。これは今日の寺子屋のお話をうかがった今年の9月から日に当てていましたが、やはり日がまだ強かったので力強く出ています。立春から春分は柔らかい色が入ります。

私はこの10年ほど柿渋にのめり込んでいます

余談ですが柿渋は平安時代に好まれていた色です。平安時代というともっときらびやかで華やかなイメージがありますが。 私はこの10年ほど柿渋にのめり込んでいます。染めには様々な世界がありますが、特に柿渋は地方によっていっぱいあります。この辺だと秩父あたりで作ってました。その土地の柿、土が違うと同じ種類でもまた違います。京都の方では着物の友禅の縁を柿渋にして、年数が経るにしたがい太陽が当たって、微妙な色合いになってくるのを愛でていました。京都は北の福知山に柿の産地があります。

柿渋の用途

京都や金沢など着物の産地では柿渋を着物に使いましたが、埼玉あたりでは川漁の投網に使われていました。ナイロンとかアクリルとかがない木綿の時代ですから、柿渋で丈夫にしたのです。川漁の漁師は冬になると網を柿渋に浸けるのが仕事でした。私が思ったのはもしこれが体に毒であれば魚が死んでしまうだろう、延々と投網に使われているということは、一種の実験なんだということです。家壁、お盆、番傘など柿渋は水をはじく性質を使っていました。これはネパールの和紙に柿渋を塗った物です。植物の繊維が見えているような和紙です。日よけのために窓に貼っていたのですが、色が入りました。

このように本当に日常的に使われていました。どこのうちでも使っていました。今は頼まなくても化学物が入り込んできますが。

ワレモコウ

これは秋の七草のワレモコウの赤紫の花芽からの色です(ええぇ!)。これは10数年経っているのですが、色がだんだん入り込んできたのです。抜ける物が抜けたのです。ワレモコウなんて想像つかないですよね。

ビワ

これ、ワレモコウに近い色ですが何でしょう。実を食べる植物です(ビワ?)。あたり!(優しい色ですね)。ビワの濃い緑の葉っぱからの色です。あの葉っぱからこの色です。実の皮で染めたんでしょ、とよく言われますが葉っぱです。これが不思議でのめり込んでいます。ビワは常緑樹なので、1年中青い葉っぱです。だけど夏は染めても色の力は持ってないのです。ビワは今頃白い花をつけます。そして花から実にいきますが、葉っぱは今一所懸命弱い陽の光で光合成をして実の方に栄養を送っています。ですからビワは今葉っぱに力があるのです。だからビワを使うのは真冬なんです。染めに使える季節がちゃんとあるんですね。日本人がほっこりするような色です。

ヨモギ

ヨモギも草餅に使う、春先の芽が2cmくらいのを染めに使います。真夏の60cmにも伸びたのは色が入りません。自然では必要な物が必要な時にできあがるので、昔の人はそのことを良く口にも入れながら、身につける物に関してもわかっていたんですね。

クルミ

これは何でしょう。(タマネギ?)。茶色ですね。クルミです。9月頃のクルミの青い実です。昔クルミは飢饉の木といって、大きな川の岸に植えられました。最上川などにはそのクルミの大木が今もあります。

これは両方とも藍ですが、こちらは生葉で染めた物、もう一方はカメで発酵させた藍に何度もくぐらせた物です。色合いが若干違います。

紅茶

これは結構身近に飲むものです。(紅茶?)。そうです。それも生活クラブのブルンジです。(私もやってみましたがうまく出来ません)。これは20回くらい染めてます。(やっぱり!)。飲み残しではないですよ。1回に1袋使ってしまいます。ちゃんとお金を掛けないとまともな物は出来ません。飲み残しだと下着が汚れたような色になってしまいます。そこにグレーを着ておられる方のと合わせてみましょう。(明るい感じになりますね)。華やぎが出ますでしょ。ここにもってくると顔が負けちゃって怖いですね。

ドラゴンフルーツ

これも食べ物です。好きずきですが沖縄の食べ物、果物です。(シークアーサー?)シークアーサーは黄色ですよね。(サトウキビ?)あ、サトウキビはこんな緑で、本当に鮮やかです。今度持ってきます。(ライチ?)。近いです。トゲトゲがあって、(パイナップル?)ではなく、(ドラゴンフルーツ?)そう。沖縄の友達が来て「弟のところでなったドラゴンフルーツだから、3日くらいで熟すからそれから食べて」ともらいました。今年の夏は暑く、とても熟して甘かったのですが、独特の紫でしたので、実を搾らないでビニール袋に入れてそのまま滴らせていました。それで染めたらこの色になりました。(へぇ、すごくいい)。

(桜のピンクに似てるんでしょうか?)。桜の開花は3,4月ですが、その頃には樹皮にも葉にもエネルギーは花のため無くなっています。ですので2月のまだ冬芽の時にはらわれた枝の樹皮で染めます。桜のピンクはこれよりもっと澄んだピンクになります。多くの方が桜を染めておられますが、私は「桜の根の下に云々」といって、あまりに妖艶なので敬遠しています。ビワくらいがちょうど良いです。

カリヤス

これは竹のような色ですが、カリヤスというススキの仲間でここにもう色が出ていますね。これには冠がついていて、イブキカリヤスといいます。伊吹山のイブキなんです。これを私は関東ローム層の自宅の庭に植えていますが、そのカリヤスでは色が出ません。伊吹のカリヤスでないとダメなんです。黄色の良い色が出ません。その土地の成分、歴史(関ヶ原に近く戦争でしょっちゅう焼け野原になった)が影響するんですね。信長が安土に築城したのは、伊吹山が漢方薬の産地だったからです。 この竹色は淀君の色なんです。小袖が丸紅の美術館に保存されています。

そして淀君は藍の生葉の緑も使っています。これが藍の種です。梅雨明け10日の藍の生葉を使うとこの色です。みずみずしい色です。真夏になってどんなに水をやってもこの色は出ません。でも淀君はイブキカリヤスの竹色が自分に似合うと思っていたようです。

これは最初カリヤスで染めて、2年目に藍の生葉で染めた物です。そういうことが丸紅の美術館でわかりました。

染めをやっていると、人の生活の歴史が垣間見えます。そのこともさらに染めにのめり込む要因です。

時間をおいて"襲"(重)ねて染める

(草木染めは色が深いですね)。化学染めは色を100%作ってから染めますので、それ以上でも以下でもありません。草木染めは、何回も染めますし、時間をおいて"襲"(重)ねて染める場合も多く、陰影が豊かに出ます。かさね染めに"襲"の字を使うのは、前の人の染めをもらいながら新しい染めを付け加える、という意味があるからです 染めはだから始めたら楽しいです。技術も能力も要りません。馬と鹿になってただやるだけ。。

藍の枯れ葉

これは藍の枯れ葉です。枯れると普通茶色になりますが、藍は青い色素が残ります。スクモは藍の枯れ葉を発酵させて作ります。藍の茎は赤いです。藍はアジアの国々ありますが、少しづつちがいます。茎を染めたことがありますが、濁った色になってしまいます。

茜は昔の日本人はお腰、肌襦袢、七五三などに使ってきました。後産にも使い、土に返していました。染めが生活の中に入り込んでいたのです。用の美ですね。この辺はほじくり返すと興味が尽きないところです。あと20歳くらい若返りたいです。

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